研修会 Q&A
- 2022年3月13日(日曜日)研修会 Q&A
- 2020年10月25日(日曜日)研修会 Q&A
2022年3月13日(日曜日)研修会 Q&A
2022/3/13(日曜日)にWEB開催されたがんゲノム医療コーディネーター研修会におけるQ&Aを掲載しております。
質問項目をクリックすると回答が表示されます。
1.がんゲノム医療の基礎知識(今井 光穂 先生)
- Q1:がん相談支援センターに勤務しております。患者さんからゲノム医療についての情報提供を求められ、がんゲノム医療を情報提供しても、がんを扱う医師の知識不足が障壁となり、一蹴されてしまうことが実臨床において多く見られます。このような事態にはどのように対応すればいいでしょうか。
- A1:基本的な「がんゲノム検査を取り巻く医療」の概念やシステムは、C-CATのパンフレットやホームページ(https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/)。中外製薬の作成するFoundationOne関連の資材やホームページ(https://gan-genome.jp/)に分かりやすく掲載されております。また、C-CATからは患者様向けのダウンロード可能な動画も提供されておりますので、そちらも参考になるかと思います。ただ、検査結果の説明となると、どこまで必要なのかが難しい問題になるかと思います。多くの患者さんは、遺伝子結果に応じた治療の有無がまずご関心があり、出てきた治療薬のご説明を希望される方が大半かと思いますので、検出された遺伝子の結果に絞ってご説明いただく形はいかがでしょうか。(参考:e-precision Japan:https://www.e-precisionmedicine.com/)
- Q2:先ほどの書籍の名前をもう一度お願いしたいです。
- A2:がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド (医学書院):‘‘検査‘‘に関してまとまっている本です。そろそろ改訂版が出ると教えてもらいました。
質問1の回答にも記載いたしましたが、オンラインになりますが、下記も検査に関わる基礎知識が掲載されています。
- C-CATのパンフレットやホームページ(https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/)
- 中外製薬の作成するFoundationOne関連の資材やホームページ(https://gan-genome.jp/)
- e-precision Japan:https://www.e-precisionmedicine.com/
(現在、診療WGにてがんゲノム医療に関する資材をまとめておられるようです。)
2.バイオマーカーに基づく分子標的治療(須藤 一起 先生)
- Q1:今後保険承認される分子標的薬について、コロナ禍の影響もあり、以前と比べ承認されるスピードは落ちているでしょうか。パネル検査の意義についてご相談に応じる中で参考にさせていただきたいです、よろしくお願いいたします。
- A1:COVID-19の治験への影響は初期には見られましたが、今は影響はあまりありません。分子標的薬の開発は引き続き活発に行われておりますが、それでも遺伝子パネル検査結果をもとに保険診療での治療が推奨される患者さんは少ないのが現状です。
- Q2:事例の様な方で、BRCA遺伝子検査のみを実施した実際がありましたが、より広範囲をカバーするパネル検査の提案の方適切だったのかなと思うのですが、如何でしょうか?
- A2:膵がんのオラパリブのコンパニオン診断機器としてはBRACAnalysis診断システムが承認されております。プラチナ併用療法後の維持療法にオラパリブが使用できるかどうかを診るための検査としてはBRACAnalysis診断システムが適切な検査であると考えます。既に標準治療が乏しい患者さんに対して遺伝子パネルを実施可能なため、そのように判断を主治医がする場合にはより広い遺伝子をカバーする遺伝子パネル検査も考慮されます。遺伝子パネル検査は膵がんのオラパリブがの使用に関してコンパニオン診断としては承認されておりませんが、エキスパートパネルにてコンパニオン診断と同等の結果と認めた場合に厚労省の通知に従ってオラパリブが保険診療で使用可能になります。膵がんでは生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異に対してのみオラパリブが承認されているため、FoundationOneでは生殖細胞系列変異BRCA遺伝子変異を確認できないので注意が必要です。
3.医療倫理と個人情報保護(中田 はる佳 先生)
- Q1:Y-CATに情報提供するタイミングは、CGM実施時のみ? 検査結果に基づいて治療が行われ、その後の経過や転帰も情報提供対象になりますか?
- A1:がん遺伝子パネル検査結果に基づいた治療後の経過(効果、副作用)や転帰はC-CATへの情報提供対象になります。患者さんの検査結果や臨床情報をC-CATに登録する主な目的のひとつとして、日本人の遺伝子情報および臨床情報のデータベースの作成があります。このデータベースを活用することで、今後のがんに関連する研究や創薬開発につながることが期待されています。
- Q2:時間がない所を申し訳あません。患者情報の記録や検査結果は、 電子カルテ内に患者情報をどこまで共有(閲覧)できて、どういう情報を閲覧制限を掛けておられるか、おられないかを教えて頂きたいです。
- A2:がん遺伝子パネル検査の結果や受検した患者さんの情報は、他の検査結果等と同様に電子カルテに記載したり、ファイルとして保存しています。がん遺伝子パネル検査を受けた患者さんの電子カルテは、診療に必要な限りにおいて閲覧することとしそれ以外の閲覧制限は設けていません。診療上の必要がないにも関わらず、患者さんの電子カルテを閲覧して情報を取得することは、医療者の守秘義務に反することになります。
倫理審査委員会に承認された研究計画書をもとに、研究目的で電子カルテ内の情報を閲覧することは可能です。
がん遺伝子パネル検査のレポートを印刷し、患者に渡すことは可能ですが、C-CATレポートに関しては患者に直接渡すことは認められていませんので注意する必要があります。
4.患者さんとのコミュニケーションのあり方を考える(國友 香奈 先生)
- Q1:治験に参加できる患者かどうかも検査前に確認しないと検査にすすめられないときいたことがあります。ゲノム検査前に患者のPSや遠方(東京)まで治験をうける体力の有無、経済力等を確認するのでしょうか、それもCGMCの説明する役割になるのでしょうか。
- A1:CGP検査は「検査後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した患者」が検査対象となります。検査結果によりますが国内承認薬が推奨薬剤として提案可能となるケースもありますので、治験のみを前提に事前説明を進めることには一定の注意が必要かもしれません。いずれにせよ、検査実施前の全身状態や検査後の治療の見通しについて、どのように評価され検査適応の判断に至ったのか、CGMCとして把握することは患者説明において必要になると思います。一方で、検査結果返却までの体調変化は予測が難しく、治療に対する意向が変わることも想定されます。ですので、あくまで検査後の見通しとして、検査結果や治療に対する意向(他院での治験を含め)、その時期の全身状態等がその後の治療選択に影響を与えることについて、CGMCが患者・家族へ事前説明しておくことが役割として重要かと思います。各施設で求められるCGMCの役割は様々ですので、患者情報の確認や説明を担う責任の範囲については、関連する職種間でコンセンサスを得ておくことが大切になると考えます。
- Q2:病棟で勤務していますが、CGMCを取得後はどのように介入したら良いでしょうか。
- A2:各施設におけるCGMC活用の方向性については、まだ役割に対する理解や認識が十分ではないことも想定され、今後の課題の一つかと思います。診療報酬の関係上、検査説明や結果返却は基本的に外来での実施がほとんどかと思いますが、患者さんの中には入院治療を繰り返しながらCGP検査を受けるケースや、検査結果を待っている間に体調が悪化し入院となることもあり、病棟で検査に関わる相談を受けることも想定されます。今後、多くの医療スタッフががんゲノム医療に関わる機会がさらに増加していくことを前提に、まずはこの領域に必要な知識の周知や支援体制の検討など、多職種で取り組めるよう自施設の機能や状況を考慮し、活動を検討していただくのが良いのではないかと思います。
5.がん遺伝子パネル検査の概略遺伝性腫瘍、germline findingsと遺伝カウンセリング(植木 有紗 先生)
- Q1:Gemline findingsについての質問です。開示対象遺伝子に病的バリアントを検出した場合、F-Oneでは遺伝性腫瘍の確定診断に至らず、確定診断を得るには末梢血での追加検査が必要です。F-ONEにおいてもOncoGuideのように最初から末梢血を採取する手順となれば確実な情報をタイムリーに患者さん(や家族)にも伝えることができ医療者側にとっても手順の効率化が図れるように思いますが、追加検査が必要となる点について現場で問題にならないものでしょうか。また、添付文書上の一変など企業側(ロシュ等)になんからの動きはあるのでしょうか。本質の質問から外れるかもしれませんがご教示いただけますと幸いです。
- A1:ご指摘の通り、Tumor-normal pairedで行うoncoguide™NCCオンコパネルシステムには、germlineの解析が行われることは利点の一つです。一方でTumor-onlyのFoundationOne検査はコンパニオン診断の適応取得があったり、解析対象遺伝子数が多かったり、融合遺伝子の解析をされたりする点から、がんゲノム検査の中で選択される場面が多いかもしれません。現時点で、FoundationOne検査について企業側に動きがあるとは聞いておりません。ただし、いずれのがんゲノム検査もgermlineについての確定診断ではなく、家系員への解析の際には発端者の検体をpositive controlとして使用するなどの工夫が求められます。がんゲノム検査におけるPGVおよびPGPVに対する遺伝学的確認検査が保険収載されるよう、遺伝関連学会から働きかけている動きもあります。家系員への遺伝カウンセリングや、遺伝学的確認検査も含め保険収載されることで、今後の患者サイドの負担の軽減が期待されます。
6.がん遺伝子パネル検査の概略(廣島 幸彦 先生)
- Q1:がん遺伝子外来のパンフレット素晴らしいです。 各診療科の医師がわかりやすいような資料などを各診療科に置いたりはされていますか?どのようなものがわかりやすいでしょうか?
- A1:当院では自施設ホームページの資料以外にCCATが発行している遺伝子パネル検査のパンフレット(https://www.ncc.go.jp/jp/c_cat/c-cat_pamphlet_A_outline.pdf)を使用しています。
上記URLからダウンロード可能で、大変わかりやすい内容となっていますので、ぜひご活用頂きたいと思います。
- Q2:連携病院はエキスパートパネルに参加させていただく形になると学びましたが、保険算定は連携病院で算定できるのでしょうか。エキスパートパネルをする中核拠点病院や拠点病院にメリットあるのでしょうか。
- A2:検査費用は検査を出した連携病院で算定します。
EPを実施する拠点、中核拠点病院はEP費用として連携病院から2−8万円程度/例(連携契約により異なる)を受領しています。
- Q3:検査結果を待っている患者さんが亡くなってしまった場合、家族が検査結果を聞くことができるのでしょうか?
- A3:患者さん本人が他者(家族)への検査結果開示について同意されていれば、検査結果を家族に説明することは可能です。検査費用を算定できないので施設により対応が異なると思いますが、当院では自費診療としてご家族に受診頂き、検査結果を説明しています。
7.リキッドバイオプシー(鹿毛 秀宣 先生)
- Q1:遺伝子変異の検出において、組織検体でのコンパニオン診断では、DNA.RNAの違いで検体の品質が変わってきますが、血漿では目的遺伝子によって検体の品質管理は変わりますか?
- A1:血漿検査では、目的遺伝子によって検体の品質管理は変わりません。組織検体ではDNA、RNAの違いで検体の品質が変わるのは御指摘の通りです。組織検体から抽出したDNA、RNAの品質が低下する主な理由はホルマリン固定に伴うもので、血漿検査は該当しません。血漿検査の品質管理ですが、F1 Liquid CDxは血液を専用採血管に採取し、室温で保存して採取当日に出検することが推奨されています。血清では凝固の際に白血球が壊れ、DNAが漏れ出て腫瘍由来のDNAの割合が低くなってしまうので、血清ではなく血漿を用います。同様に採血の際には溶血に注意が必要です。
8.がん遺伝子パネル検査のレポートの読み方と結果の説明(小峰 啓吾 先生)
- Q1:本日のご講演からすると、各施設間で結果の解釈に差が出るために、患者さんが得られる治療が変わる可能性があるということになりますでしょうか。
- A1:同じ症例でも、各エキスパートパネルの結論が異なることはあり得ます。特にエビデンスレベルの低いものについては異なる可能性があることが報告されています。C-CAT調査結果の有効活用により一定の担保はされていますが、患者さんに十分な治療提案を行うために、バイオマーカーのエビデンスの知識や治験の情報のアップデートが必要です。
9.がん遺伝子パネル検査結果に基づく治療(砂川 優 先生)
- Q1:先ほど遺伝子パネル検査の前倒し検査を実施することも多くなったと伺いました。遺伝子パネル検査は1回なので、治療により耐性が獲得されたり、遺伝子に変異が見られることもあると思いますが、その場合はコンパニオン検査を実施して、新たな治療方法を選択することになりますか。
- A1:はい、その通りだと思います。ただ、現在保険適用された遺伝子パネル検査は1回しか施行できないため、治療早期で実施し、さらにその後の耐性を確認するために検査を行うことができません。もともとある遺伝子異常を評価するか、治療経過で獲得される耐性遺伝子異常などを評価するか、それぞれの患者さんで検討することになると思います。また、肺がんのように耐性機構が次の治療標的になるがんもあれば、耐性機構が必ずしも標的にならないがんもあります。ですので、必ずしも治療後にパネル検査を実施した方が良いということではないだろうと思います。
- Q2:10年前に標準治療を終えている大腸がんの患者さんです。パネル検査(リキッド)を実施しました。MS1-High 192で治験に参加できるとの結果でしたが、1センチ以上の腫瘍がなく、治療に踏み切れませんでした。 こういったケースでは、今後どのような経過になりますか。腫瘍が1センチ以上になるまで待つしかないのでしょうか。または、今回は諦めるしかないのでしょうか。
- A2:治験を目標にする場合は、適格条件がすべてですので不適格な状況では難しいかと思います。患者さんの状態が待てるようであれば待つのも選択肢のひとつになるかもしれません。また、日常臨床でICIを使用することを目標にした場合、F1LCDxのMSI-Hはコンパニオン診断機能として承認されていないため、薬剤投与に繋げることができません。再発巣を生検し組織MSI検査を実施することになるかと思います。また、もし、これから保険償還されるガーダント社のG360が2回目の検査実施OKとなるのであれば、MSIがコンパニオン診断になっていますので、こちらを実施してICI投与が可能になる可能性はあるかと思います。
- Q3:紹介された患者さんの場合、治験の情報が更新された時に先生の方から紹介元の医師に情報提供、連絡することはあるのでしょうか?
- A3:非常に重要な取り組みだと思います。各ゲノム医療機関で、定期的にエビデンスを見直し、これまで行った遺伝子パネル検査の結果をフォローして、治験や治療情報を提供する動きが標準化されることが必要だと思います。現時点では各施設の努力に任されているかと思いますので、実施可能であれば進めていただくのがよろしいかと思います。
10.CGMCが行う業務内容について(平館 ありさ 先生)
- Q1:患者さんへの説明資料をどのように作成すればよいでしょうか
- A1:がん遺伝子パネル検査の説明については、C-CATのHPより、『「がん遺伝子パネル検査」を検討する方にご理解いただきたいこと』のパンフレットがダウンロードできますので、そちらをご活用いただくと良いと思います。その他に、検査の対象や検査期間、料金、連絡先など患者さんに伝えたい内容を記載していただくと良いと思います。
治療に関する話などの資料作成をされる場合は医師と連携して作成いただくと良いと思います。
- Q2:病院の仕組み作り(検査→検査結果)までにどのような取り組みをされましたか? 同一人物がフォローすることが難しいです。
- A2:検査が始まる前にマニュアルを作成し、多職種でそれぞれの役割分担を行いました。また、外来で検査費用や同意書の取得を忘れないようにするためにチェックリストを作成し活用しています。外来での患者さんとの関わりでは、当院では外来業務と兼務していますので、毎回同じCGMCが関わることが難しいです。そのため、外来での関わりを電子カルテに残したり、医師も含めた情報共有を行うことで統一した関わりができるよう心がけています。
- Q3:今後、CGMCは認定など資格制度が検討されますでしょうか?
- A3:CGMCは本研修会修了者が想定されていますが、現時点では認定制度が導入される予定はありません。
- Q4:CGMCの所属は看護部になりますか?
- A4:北海道大学病院の現在活動しているCGMCの所属は看護部です。CGMC研修会を修了した臨床検査技師や薬剤師、認定遺伝カウンセラーもおりますが、CGMCとして活動はしていません。
11.事例検討(小山 隆文 先生)
- Q1:この事例では、保険適応外でNCCオンコパネルを提出したという理解でよろしいでしょうか。また、全身状態のことを考えると早めに検体を採取したほうがよいと思うのですが、絶対にオンコパネルに提出できるわけではない(PDになったときに全身状態が悪く予後が見込めない可能性もある)のに、侵襲的な生検をPDになる前のタイミングで行うことが許容されるのでしょうか。
- A1:
- 転移性膵癌の1次治療として、GnP療法 (ゲムシタビン+nabパクタキセル)、FOLFILINOXが考えられます。2次治療としては、PSが保持されており、1次治療による末梢神経障害が強くなければ、1次治療として選択しなかったGnP療法またはFOLFILINOXが選択されます。Nal-IRI/FL療法(リポソーマルイリノテカン・5FU/LV療法)が転移性膵癌の治療として保険承認されています。Nal-IRI/FL療法はゲムシタビンに効果がなかった症例に対してのデータはありますが、FOLFILINOXに効果が無かった際に関してはデータは十分ではありません。
- この事例では、術前化学療法でGS療法 (ゲムシタビン+TS1)を行っていますが、病理学的な効果は中程度でした。ゲムシタビン、フッ化ピリミジン系薬剤(TS1や5FU)への感受性が期待できない可能性があります。この事例の1次治療としてのGnP療法の効果が期待できない可能性を含んでいます。GnP療法実施中に肝機能、痛み、食欲不振などの症状を注意深く観察し、病勢を判断することが重要となります。
- 多発肝転移で再発していますので、PS低下、肝機能障害などから、2次治療が不応になった際には、緩和ケアが最善となる可能性があります。この事例においては、2次治療FOLFILINOX中には、標準治療が終了と見込まれると判断されても違和感がないかと考えています。また、がん遺伝子パネル検査は、結果が返ってきた際に、化学療法が可能な状態の患者さんに行うことが重要ですので、このタイミングでのがん遺伝子パネル検査提出が適切な選択肢の1つかと思います。
- 同じがん種であっても、治療歴、病勢、PSなどを考慮し、どのタイミングでがん遺伝子パネル検査を出すかを、各症例毎に検討する必要があります。
- がん遺伝子パネル検査検査を提出する最善の時期を考慮し、それから導き出されるスケジュールから、この事例での肝生検のタイミングは適切である可能性が高いと考えます。しかし、生検の実施前には生検のアプローチができやすい部位に肝転移があるのか、また細胞がとれる病変なのか(壊死性病変など)などを総合的に判断する必要があります。
11.事例検討(林 秀幸 先生)
- Q1:事例1のエキスパートパネルからの総評で、『オラパリド』の適応について『初回治療で別の薬剤が使われていたら、オラパリドが使えなかった』との説明があったかと思います。 この説明を聞いた際、がん遺伝子パネル検査を行うかもしれないという前提で、治療方針を決めた方が、患者さんの選択肢が増えるのではないかと考えてしまいました。パネル検査後に治療までつながる確率は低いですが、パネル検査を患者が希望することを前提に考え、少しでも治療の選択ができるような治療方針を考えた方がいいのでしょうか
- A1:質問ありがとうございます。現在、保険診療下でのがんゲノムプロファイリング検査が実施可能な状況においては、将来いずれかのタイミングで遺伝子パネル検査を実施することを念頭に置いた治療戦略を治療導入時より考慮する必要があるかと思われます。現行では保険診療下での遺伝子パネル検査の適応は標準治療がない、または標準治療に不応(見込みを含む)な固形がん患者に限定されておりますが、検査の適切な実施タイミングについては現在、検討がなされているところです(遅すぎても早すぎても良くないと考えております)。
11.事例検討(二川 摩周 先生)
- Q1:患者さんの個人情報について ・患者さんの同意があれば、患者さんでなく家族だけで結果をきくことは可能でしょうか。 ・患者さんの遺伝情報をどこまで医療者は共有してよいのでしょうか。研修医や病棟看護師、薬剤師なども開示していてよいのでしょうか。とくに治療に結びついていないGermline variantがあった場合はどうされているのでしょうか。
- A1:①事前に患者本人の同意があれば、家族のみで結果を聞くことは可能です。「がん遺伝子パネル検査に関する同意書(モデル文書)」に記載されている家族等であることに注意してください。「検査結果の共有を許可する家族等」の望ましい例としては、検査前の説明に同席した家族であることを事前に説明してください。②診療に必要な限りにおいて、医療者間で共有して良いです。また、倫理審査委員会の承認を得た研究計画書をもとに、研究目的で電子カルテ内の情報を閲覧することは可能です。③臨床的に確立した治療法や予防法が存在する、あるいは、患者本人・血縁者の健康管理に有益な所見である場合に原則として患者さんに開示します。
- Q2:長女に対してはシングルサイトを自費で実施という理解でよろしいでしょうか 予防的切除の可能性も含め、保険診療で再度BRACAnalysis検査になるでしょうか
- A2:本人の確定診断後、血縁者診断としては、シングルサイト検査(自費)が一般的です。本症例では、長女は40歳で乳がんの既往があるため、HBOCと診断された場合には、検査を問わずリスク低減手術も含めたHBOC診療が適応となります。
- Q3:今回の研修会の主テーマではないのですが、 検査結果が、ご家族にとっても有用な情報になると考えると、 がんゲノム検査の結果をどのように保管されていますでしょうか? 1.すべての結果を電子カルテに残す(生データなど膨大なものを除いて) 2.閲覧制限やPWをかけるなどして、電子カルテに残す 3.結果の一部(EPパネル結果のみ)を電子カルテに残す 4.電子カルテには結果を残さず、何らかのオフラインのみで管理 参考までに各施設様の対応についてご教示いただけますと幸いです。
- A3:がん遺伝子パネル検査の結果レポートや、受検した患者さんの臨床情報は、他の検査結果等と同様に電子カルテに記録しています。また、患者本人・血縁者の健康管理に有益となる遺伝学的検査の結果も電子カルテに残しています。
- Q4:ジャームラインの開示対象としてサインした家族及び患者が病状急変等の理由で結果開示に来院できなくなった場合、どうしていますか?
- A4:原則、対面での結果返却としているため、別日で日程調節しています。
11.事例検討(竹内 伸司 先生)
- Q1:同意書を取得する際、『家族に結果を伝えるかどうか』という項目がありますが、患者が伝えてよいと回答しても、家族が知りたくないとした際は、どのように関わればいいのでしょうか。 また、同意書を取得する際に、上記のような家族の希望を確認する必要はありますでしょうか。
- A1:同意取得時に原則として家族の同席を御願いしており、結果の開示について家族の意思も確認するようにしています。家族が同意取得時に同席できず、死亡等により本人に結果を説明できない場合、同意書で指名された家族に連絡をしますが、十分に説明した上で結果の開示を希望されなければ、家族の意思を尊重します。なるべく同意取得時に家族も同席してもらうことが望ましいと思います。
11.事例検討(井本 清美 先生)
- Q1:胸水でブロックを作成したら検査できるのですか
- A1:胸水などの体腔液を用いてセルブロックを作製してパネル検査を行うことは可能です。
ただし、セルブロック作製法は遠心分離細胞収集法や細胞固化法に大別されていて、その方法は標準化されていないのが現状です。当院でこれまでに経験したのは1検体のみですが、アガロースゲル法で処理した検体を解析に用いて問題なく検査を行うことができました。固定時間が長いとDNAの品質が低下ししてしまうため、当院では、臨床側が体腔液を用いてセルブロックの作製を検討する際には、その旨を事前に病理診断科に連絡をしてもらえるように案内しています。また、炎症細胞が多い検体では腫瘍細胞比率が低下し解析が十分に行えません。このような場合にはパネル検査目的の検体として不適格となるため、セルブロックの作製は行えないことも併せて案内しています。
11.事例検討(伊東 守 先生)
- Q1:事例2でリキッドが選択されたのは細胞検体の採取がなく、原発不明がん肺転移で進行スピードが早いからですか?
- A1:シナリオに、事例2で肺転移の生検ではなく、リキッドが選択された理由は記載がありませんが、
- 生検が過侵襲になる場合、困難である場合
- 生検を患者が希望しない場合
- 生検をしたとしても十分な組織量を得る見込みが低い場合
- 病勢が早く、生検実施後の検査では結果帰着が間に合わない可能性が高い場合
病状や患者の希望に応じて、組織採取か、リキッドか適切な手段を選択することが必要だと思います。
11.事例検討(北見 繭子 先生)
- Q1:症例1・2ともに薬剤師はどういった関わりをすることが望まれるのでしょうか? またCGMCとして、患者にかかわるうえで、それぞれの職種間で役割分担などありますでしょうか?
- A1:事例1,2ともに薬剤師としては、薬剤の適正使用に関して関わっていくことが重要ではないかと考えます。事例1であれば、オラパリブや他の抗がん剤の適応に関して、各薬剤の審査報告書・添付文書、主要な臨床試験での組入・除外基準、及び膵癌の診療ガイドラインを踏まえ、薬剤の観点から研修会で九州大学病院の伊東先生からお話ありましたような議論を主治医とできればよいのではないかと思いました。事例1のようにエキスパートパネルで保険承認されている薬剤が推奨されることはあまり多くないかもしれませんが、事例2のような治験薬が推奨される場合においても、臨床研究情報ポータルサイトやCinicalTrials.govを使用して情報収集、必要であれば企業や施設に実施状況の問い合わせを行うことも考えられるのではないかと思います。
職種間の役割分担については、当院での話になりますが、がん遺伝子パネル検査同意時やエキスパートパネル後の結果説明等、患者さんと関わる部分については外来看護師が、検体の取り扱いに関わる部分は臨床検査技師が、その他エキスパートパネルに関わる部分(レポートやC-CAT調査結果の管理、日程調整、医事会計との連携、連携病院とのやり取り等)は薬剤師が行っております。また、当院ではエキスパートパネル前にコアメンバーで事前検討を行っておりますが、そこに専門の医師だけでなく、認定遺伝カウンセラー、薬剤師も参加しております。
11.事例検討(宇土 しのぶ 先生)
- Q1:がんゲノム診療コーディネーターの職種は多様ですが、今回の事例のような主治医からのパネル検査の適応についての相談は看護師の職務権限を越える範囲ではないかと考えます。すでに触れられていたかもしれませんが当方のマイクの調整不良でその点が不明瞭でしたので教えていただけますと幸いです。
- A1:看護師が、がん遺伝子パネル検査の適応の有無について決定したり、検査を提出したりすることはできないと思います。しかし、看護師が医師へ根拠に基づく情報をもとに、がん遺伝子パネル検査の適応に関して知識提供や提案を行うことは、越権行為にはあたらないと考えます。